【JC翌日は東大でお勉強】 | 高崎武大のこんな騎手情報局

【JC翌日は東大でお勉強】

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『日本ウマ科学会・第18回学術集会』のシンポジウムは一昨年からサラブレッドを題材に開催されているが、1頭の馬を取り上げるのは今年が初めて。プログラムにディープインパクトの名は一切なかったのだが、会場となった東大農学部1号館8番教室には皐月賞時のディープインパクトのポスターがベタベタと貼られ、まるでディープ一色といった雰囲気でした。参加費3000円(学生1000円)だったが、会場は立ち見も含め約240人が殺到し、前年の5倍越えという大盛況ぶり。JRA調教師や厩舎関係者の姿も多数あり、更には一般ファンや、東大競馬研究会のメンバー10人の姿もありました。

この日は、“心拍数”が最大になった時の走行速度でもディープのケタはずれの能力が証明された。JRA栗東トレセン競走馬診療所の塩瀬友樹氏の発表によると、ふつうの2歳馬は秒速13.4メートル、3歳馬で14.6メートル、古馬(4歳以上)の500万クラスで14.8メートル。ところが、ディープは昨年12月の2歳新馬戦の最終追い切りの時点で16.3メートルと驚異的な数値をマークしたとされる。デビュー前の昨年10月は13.8メートルだったというから、2カ月で格段の成長を遂げたことになる。放牧に出されたりすると、数値を元に戻すのに時間を要するが、ディープは夏場は札幌競馬場に入厩させるなど厩舎側の尽力もあり、高いレベルで安定しているという。

この研究を始める理由になったのは、デビューからコンビを組む武豊騎手の「ディープの走りはまるで空を飛んでいるようだ」という発言、ディープの脚もとを支えるカリスマ装蹄師の西内荘さんが皐月賞後に「ディープは蹄が減らない」と話したことなどが発端となったわけだ。

走るフォームを細かく解析するために、1秒でなんと250コマの解析能力があるカメラを菊花賞当日のゴール板手前100メートル地点に設置した。しかしディープが馬混みの中にいたり、外側に馬がいたりすると解析は不可能だった。心配をよそに、菊花賞史上最速の上がり3ハロン33秒3(200メートル11秒1!)の豪脚で、カメラの設置場所を過ぎて、先頭を行くアドマイヤジャパンを並ぶ間もなく突き放す強烈な内容に、スタッフの心配はまるで杞憂に終わったのだが・・・

解析の結果がプリントにも書かれており、驚いたのはディープの残り100メートルの平均時速がなんと64キロ!他馬の平均が57キロというのだから、いかにスピードが違うか分かる。2900メートルを走ってきて、この能力差は怖ろしいほどだ。さらに、ディープの1完歩の幅が7.54メートルなのに対し、他の馬たちの平均は約7メートル。1完歩で約50センチの差を縮めていたのだ。もうこれはどうしょうもない差と言えるだろう。また、1完歩と1完歩の間には、エアボーンと呼ばれる、どの肢も地面に接していない“空を飛んでいる”瞬間があるのだが、このエアボーンで、ディープは0.124秒で2.63メートルも進んでいる。他馬の平均は0.136秒で2.43メートル。ディープは走っている速度が他馬より格段に速いため飛んでいる時間は短いが、“飛行距離”は段違いに長い。武豊騎手が「空を飛ぶように走る」と話しているのは、こういうことだったのだと一同納得しました。

もうひとつ注目すべき点は、上下動(ブレ)の少ない走りだ。ディープの筋肉はゴム毬の柔らかさに、バネのような伸縮力があるそうで、西内装蹄師によると、「後肢で耳をかくことができる」と猫や犬のような仕草をやってのけるという。車のエンジンに相当する心臓の大きさ、心肺機能の高さばかりでなく、筋肉の柔軟さがブレの少ない走りを生み出し、スムーズに体重を移動し、推進力へとつなげているのだ。「だから無駄に蹄が減らないんだよ」と横にいた栗東のT調教師は語ってくれた。

武豊騎手の感性とは別に、科学的にも証明されたディープの速さ、強さ。史上初の無敗4冠に挑む有馬記念まで、4週間を切ったのだが走りを早く観たいと今から待ち遠しい。ディープインパクトが歴戦の古馬を撃破し、日本中のファンに感動のクリスマスプレゼントを贈ってくれるのだろう。